マイケル・J・フォックス民主党候補応援CM問題 (続報あり)

マイケル・J・フォックス/CBSインタビュー番組に出演  「演技ではない。投薬もしている」と反論(CNN 2006/10/27)保守系ラジオのリンボー(Limbaugh)「恥知らずな演技・わざと薬のんでない」と攻撃(YouTube/ MSNBC 2006/10/27) フォックス民主党候補応援CM(YouTube)   パーキンソン病の俳優マイケル・J・フォックス(Michael J. Fox バック・トゥー・ザ・フューチャーが有名です)が、ミズーリ州から出馬している 民主党下院議員応援CMに出演して、体を大きく揺らがせる病状もあらわに、難病治療につながるとして注目されているヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究支持の民主党候補への支持を訴えて全米に大きな反響を呼びました。(サンケイWeb 2006/10/27)。 日本社会では考えにくいリアクションとして注目されるのは、すぐに保守系トーク・ラジオ番組ホストのリンボーがフォックスのことを「恥知らず(Shameless)」とまで呼んで攻撃したことです。フォックスが体を大きく揺らせているのは演技だ、あるいはわざと薬を飲まないで症状を出しているんだと決めつけたのです。何の根拠があって演技だと決めつけられるのだろう?などと思ってはいけません。彼は番組の後半で「ぼくが間違っていたら謝るよ」とつけ加えています。ただ、発言を取り消しているとか、本当に謝罪しているということではありません。 フォックスは取材に答えて、またCBSのインタビュー番組に出演して「演技ではない。投薬もしている。皮肉なことに投薬のし過ぎでこうなったんだ」と反論しました。世間の偏見のあらわれのひとつということでリンボーに直接、謝罪を求めることはしない姿勢です。また、共和党でES細胞研究を支持しているスペクター上院議員を応援したことなどを挙げて、党派的に動いているわけではないとも反論しています。CBSのインタビュー番組をホストした女性キャスターは父親がパーキンソン病で、彼女もフォックスの財団に寄付していることを番組の最後に明らかにしています。  このニュースからは、アメリカの選挙と政治のさまざまな側面が浮かび上がってきます。まず、フォックスが、「政治に関心はない」という立場をとりながら、ES細胞研究ひとつを争点として(いわゆるシングル・イシュー)個々の候補の応援CMに出ていること。建前から言えば、全米向けのCMに出てES細胞研究支持候補を応援しましょうと言うべきなのかもしれませんが、彼は個々の選挙結果に影響を与えることを望んでいて、さらにローカル放送で流されるに過ぎない候補応援CMが全米ネットワークの話題になって、タダで全米に放映される効果まで計算してCMに出演したに違いありません。 これに対して、何の根拠もなくフォックスを「恥知らず」な嘘つきだと攻撃して平然としているリンボーの姿勢は、迫る選挙で歴史的敗北を喫しそうな共和党が今まで頼りにしてきたキリスト教右派(自称モラル・マジョリティ)の宣伝の場である保守派トーク・ラジオ番組のスタイルがよく表れています。何も調べもせず、確認することもなく、「気にくわない事実」は「リベラルの陰謀」だとして一刀両断に切り捨てることをリンボーは保守的なリスナーたちに呼びかけているのです。その背後には、リスナーたちとリンボーが共有する反リベラル・反知性主義の空気があります。 先頃、ブッシュ大統領は就任後はじめて拒否権を行使してアメリカの学術機関によるES細胞研究への連邦政府の支出を認める法案を葬り去りました。全米の科学者は、先端医療さらにはアメリカの科学研究全体が世界から取り残されると危機感を抱いています。アメリカではこの問題は、もはや冷静に語り得る生命倫理を問う問題というよりは、中絶禁止問題と同様にキリスト教モラル・マジョリティの側に与するのかをめぐる踏み絵となってしまっています。今年のノーベル賞の科学部門をアメリカはほとんど独占しましたが、その国で中世への退行が始まっている、とは『週刊現代』で町山智浩氏が書いていますが、まさにその感が否めません。ノーベル賞委員会はそういうアメリカの現状に危機感をもって今年の賞でアメリカに奮発したのではないかというのが私の深読みです。 選挙が迫るにつれて、「結果が全て」「話題になった方が勝ち」のアメリカ政治文化を垣間見ることができるこのような出来事が次々と話題になることでしょう・・・。

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