法の下の平等と市民権
近代市民社会における「全て人は法の下に平等」の法理における「人」が各国の憲法においてどのように記述され、解釈されてきたかという問題は、国民国家におけるシティズンシップの問題を考えるうで最も重要な主題のひとつです。
合衆国憲法14条第1項は、州が「何人」any personからも「法の平等な保護」を受ける権利を奪ってはならないと規定しており、その限りでは普遍的な平等保護原則を謳っています。しかし同条項の前段が合衆国市民権の規定となっていて「合衆国において生まれたまたは帰化した全ての人は・・・合衆国市民である」としており、さらに「合衆国市民の特権または免除」を奪ってはならないとしているために、権利保護の範囲と国民・市民権の境界の関係性が問題とならざるを得ないのです。
Amendment XIV
アメリカ大使館訳
第一節 合衆国において出生し、またはこれに帰化し、その管轄権に服するすべての者は、合衆国およびその居住する州の市民である。いかなる州も合衆国市民の特権または免除を制限する法律を制定あるいは施行してはならない。またいかなる州も、正当な法の手続きによらないで、何人からも生命、自由または財産を奪ってはならない。またその管轄内にある何人に対しても法律の平等な保護を拒んではならない。
合衆国憲法は最初の成文憲法であるということもあり、表現に曖昧な部分を多く含んでいます。そのために憲法解釈が争われる余地が大きかったとも言えます。数多くの日本語訳もその全てがある意味では意訳であって、その正確さや法解釈との関係については多くの問題を含んでいます。
合衆国憲法の訳をめぐる興味深い議論として:中公新書 アメリカ合衆国憲法を英文で読む―国民の権利はどう守られてきたか (新書) 飛田 茂雄 (著)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4121014278/sr=11-1/qid=1165423489/ref=sr_11_1/249-5136244-5917138
一方、日本国憲法はその制定時に法の平等保護の権利主体をどの範囲にするかでかなり論争がありましたが、法の平等保護規定については結局「国民」という用語が使われることになりました。
この「国民」は明らかに日本国籍の保持者に明示的には限定されるのであって、このような規定がなされた背後には、朝鮮・台湾などの旧植民地人を国籍分離したあとの処遇を国会で定める方によって柔軟に規定したいという政府の思惑があったと指摘されています。その後の最高裁判断において「国民」は、より普遍的な意味での「人」と同義に解釈される方向が打ち出されていますが、戦後の外国人人権保障の歴史において、この文言の制約が大きな意味をもってきたことは否定できないのです。
外国人権利保障と14条の問題について:古川純「外国人の人権(1)-戦後憲法改正との関連において」『東京経済大学 学会誌 146号』1986年6月。
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