『平和と和解の思想をたずねて』
平和とは何か。和解とは何か。現代の社会科学は何を思考しうるか。新たな思想領域をひらこうとする研究者たちが課題に向き合う──一橋大学社会学研究科「平和と和解の研究センター」関係教員たちによるオムニバス講義から生まれた論集です。中野は戦争の記憶をめぐる日本・フィリピン関係について自らの研究をふり返る論考を書かせていただきました。
<本文から>
第2次世界大戦中、日本がフィリピンに深刻な戦争被害を与えた事実は、敗戦後の東京裁判やその他の戦争犯罪裁判、あるいは1950年代までのフィリピン政府の厳しい対日姿勢などを通じて、日本社会でも広く知られ、また記憶されていた。ところが、今日の日本社会において、日本がフィリピンに与えた戦争被害はものの見事に忘れ去られているのが現実である。日中戦争における南京事件(1937年)をめぐる国内・日中間の論争が日中関係にも深い影響を与える問題として繰り返し報道されているのとはきわめて対照的だ。この対照はなぜ生じたのか。そして、このままで良いのだろうか。これらの問いを通じて、本章では、戦争の記憶とりわけ戦争加害と被害をめぐる、より望ましい「質の高い和解」とは何かを考えてみたい。
<書誌情報>
「和解と忘却──戦争の記憶と日本・フィリピン関係」平和と和解の研究センター・足羽輿志子・濱谷正晴・吉田裕編『平和と和解の思想をたずねて』(大月書店、2010年6月11日、345+vii頁):252-272頁。共著者、吉田裕、濱谷正晴、根本雅也、多田治、渡辺治、森村敏巳、寺崎陽子、内海和雄、深沢英隆、中野聡、落合一泰、岡崎彰、足羽輿志子。
http://www.otsukishoten.co.jp/book/b61785.html
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