「帝国の終焉」とアメリカ
山川出版社から渡辺昭一編『帝国の終焉とアメリカ』が刊行されました。パクス・ブリタニカからパクス・アメリカーナへ。アジアにおける植民地支配の終焉とヘゲモニーの交替に着目し、「20世紀的世界」の歴史的発展過程を明らかにする共同研究の成果論文集です。中野聡の所収論文「イギリス帝国の終焉と東南アジアの国民国家エリート」は、ロビンソンの協調理論を参照しつつ、ASEANをポスト・イギリス帝国における協力者=国民国家エリートの共同体、対外的な協調体制としてとらえるとどのような歴史像が見えてくるかを検討しました。結びの言葉から・・・「欧米中心史観を克服するうえで「周辺」の主体性に注目して帝国やヘゲモニーの制約や限界を語るのはたしかに大事であるが、対象地域の政治エリートの主体性を強調するあまり、彼らが抱える内的・外的制約や限界を見失ってはならない。ロビンソン論文は、独立後の「近代エリート」の政治的困難を予想するなかで、彼らもまた歴史被拘束的な状況の虜なのだという視点を示していた。本章ではこの観点から、「帝国の終焉」後の東南アジア国際秩序が、協調的な開発体制諸国が構成するASEANによって担われたことの歴史的意味を考察することで、アジアの主体性を「等身大」に捉えるひとつの視点を提起してみたつもりである」。 山川出版紹介ページ
岩波『思想』特集・戦後60年
「戦後」を「日本」への/からの固着より引き離し、アジアの空間と時間のなかで考察すること、「戦後」を複数の歴史空間が重層する場に解き放つこと(成田龍一・吉見俊哉)――などをめざした岩波書店『思想』特集「戦後60年」に寄稿の機会を戴きました。拙稿「フィリピンが見た戦後日本―和解と忘却―」では、フィリピンの「戦後意識」における「マニラの死」の喪失感の意味、対日姿勢の政治学の変遷(報復と告発、攻撃と交渉、お詫びと厚意の互恵関係)、そして和解と忘却によって特徴づけられる戦争の記憶をめぐる現代の日比関係が抱える問題点、より質の高い和解と心の平和を得ることができるような、そして終わらせることを目的としない「戦後」をあらたに作りなおし、生きなおす営みの必要性を論じました。 岩波書店紹介ページ
太平洋世界の中のアメリカ
本書は、アメリカと他の太平洋諸国の多面的な関係とその変容過程を、歴史、政治外交、安全保障、経済・環境、社会情報、文化などの諸側面に注目して、学際的に検討することによって、太平洋地域とアメリカとの関係を総合的に展望しようとする叢書『変貌するアメリカ太平洋世界』の第1巻で、太平洋世界を構成するアメリカと他の主体とのせめぎ合いを、過去と現在の両面から検討しています。中野は「『彼らの自助を助けるために』―冷戦期アジア太平洋におけるコミュニティ・ディベロップメントの論理と現実―」という論文で、アメリカ南部で黒人農村を対象とする自助支援事業を行なっていた黒人社会学者アーネスト・ニールが、冷戦期に対外援助事業専門家に転身して、主としてフィリピンの農村開発事業に関わった経緯を中心に、コミュニティ・ディベロップメント事業の中核的なアイデアとなった自助支援の論理と現実、アメリカ南部と第三世界の経験の互換性や相互浸透性について検討しました。 版元ドット・コム紹介ページ
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