岩波『思想』特集・戦後60年

「戦後」を「日本」への/からの固着より引き離し、アジアの空間と時間のなかで考察すること、「戦後」を複数の歴史空間が重層する場に解き放つこと(成田龍一・吉見俊哉)――などをめざした岩波書店『思想』特集「戦後60年」に寄稿の機会を戴きました。拙稿「フィリピンが見た戦後日本―和解と忘却―」では、フィリピンの「戦後意識」における「マニラの死」の喪失感の意味、対日姿勢の政治学の変遷(報復と告発、攻撃と交渉、お詫びと厚意の互恵関係)、そして和解と忘却によって特徴づけられる戦争の記憶をめぐる現代の日比関係が抱える問題点、より質の高い和解と心の平和を得ることができるような、そして終わらせることを目的としない「戦後」をあらたに作りなおし、生きなおす営みの必要性を論じました。 岩波書店紹介ページ

マニラ戦の実像と記憶(1)

      少々事情もあり、マニラ戦(1945年2月-3月)の実像と記憶についてこの場を借りて紹介し、また考えていきたいと思います。 (写真 マニラのイントラムロスにあるメモラーレ・マニラ1945祈念碑)     日本軍の残虐行為と米軍の砲爆撃で、第2次世界大戦において「ワルシャワに次ぐ破壊」と言われるマニラ戦は、日米間で戦われた最大規模の市街戦でした。10万人の犠牲を出したマニラ戦の記憶が風化してゆくことに、往時を知るマニラ市民の多くは釈然としない思いを抱いています。50周年のときに祈念碑を建立した祈念団体メモラーレ・マニラ1945は今でも活動を続けています。今でもマニラの人々はなぜマニラがこのように破壊され、無慈悲な残虐行為が行われたのか、その説明を求め続けています。 Sack of Manila (米バタアン戦ベテランによるマニラ戦残虐行為についてのWeb記事) 米陸軍戦史HP ルソン解放 1944-1945祈念団体メモラーレ・マニラの動き Inquirer 2005/2/13 Remembering Manila 1945 Manila Times 2005/2/6 Philippines Daily Inquirer 関連記事(残虐行為の被害の実態など) Escodas, Vicente Lim beheaded (Feb 12, 2005) Massacre of Agustinians, San Juan de Dios staff (Feb…

太平洋世界の中のアメリカ

本書は、アメリカと他の太平洋諸国の多面的な関係とその変容過程を、歴史、政治外交、安全保障、経済・環境、社会情報、文化などの諸側面に注目して、学際的に検討することによって、太平洋地域とアメリカとの関係を総合的に展望しようとする叢書『変貌するアメリカ太平洋世界』の第1巻で、太平洋世界を構成するアメリカと他の主体とのせめぎ合いを、過去と現在の両面から検討しています。中野は「『彼らの自助を助けるために』―冷戦期アジア太平洋におけるコミュニティ・ディベロップメントの論理と現実―」という論文で、アメリカ南部で黒人農村を対象とする自助支援事業を行なっていた黒人社会学者アーネスト・ニールが、冷戦期に対外援助事業専門家に転身して、主としてフィリピンの農村開発事業に関わった経緯を中心に、コミュニティ・ディベロップメント事業の中核的なアイデアとなった自助支援の論理と現実、アメリカ南部と第三世界の経験の互換性や相互浸透性について検討しました。 版元ドット・コム紹介ページ

近現代フィリピン・日本関係史

近現代フィリピン・日本関係史

本書は、日比両国の研究者が結集して編んだ、両国関係史についての初めての本格的な国際共同研究の成果論文集です。東南アジアで日本と地理的に最も近いフィリピンと日本は、「戦争と平和の20世紀」を通じて、経済交流、移民、安全保障、戦争、戦後賠償、信頼醸成などをめぐって、まさに波瀾万丈の歴史を営んできました。とくに本書から浮かびあがってくるのは、両国関係が、アメリカを筆頭に中国や東南アジア諸国などを含む多国間関係と不可分に営まれてきたことです。この観点から本書では、本格的な学術研究としては初めて、近現代の日比経済交流史を多国間関係の中に位置づける試みがなされています。

アメリカが語る民主主義

アメリカが語る民主主義

『アメリカが語る民主主義』と 同じ研究グループが1999年から3年間新たに取り組んだ共同研究(国立民族学博物館地域研究企画交流センターと一橋大学大学院法学研究科の連携研究)の 成果論文集として大津留(北川)智恵子・大芝亮編『アメリカのナショナリズムと市民像:グローバル時代の視点から』がミネルヴァ書房より刊行されました。 「アメリカのナショナリズムがどのように表れるか、ナショナリズムをグローバルな文脈でとらえると何が見えてくるのか、そしてアメリカの内に生じる市民像 はアメリカのナショナリズムをどのように語りなおしているのか、という3つの視点から構成されて」います。

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